2013年1月19日土曜日

Economist紙はなぜ構造改革しか言わないのか


イギリスの経済紙Economistが、まるで壊れたラジオのように、しつこく日本に構造改革を勧めてくる。この記事(日本経済:ケインズと鉄道と自動車)もご多分に漏れない。

正しいことを言っているのならば承るが、困ったことに、日本への現状認識と処方箋が完全に間違っている。

エコノミスト紙で日本関係の論評をしているのは、当たり前だが大体イギリス人だ。イギリス人が構造改革を勧めてくるのは、イギリス自身がそれによって成功した体験があるからだ。なにも日本に意地悪しようとして間違った処方箋を勧めているわけではない(と信じたい)。

イギリスの経済病はしつこいインフレと産業力の衰退であった。


イギリスのインフレーションは日本の比ではない。上の図をみてみると一目瞭然であるが、76年には24%近くに達しており、先進国としては相当なインフレ経済だった。このようなインフレ経済を作ったのは行き過ぎたケインズ政策の結果であった。総需要を拡大するために強い雇用規制、高い公務員給与と年金、産業における保護政策、公共事業の拡大などである。これが一般物価の上昇を招いた。

そこで登場してきたのが、構造改革路線としてのサッチャリズムである。教科書的な説明を言えば、「ゆりかごから墓場まで」という高福祉政策を見直し、規制でがんじがらめだった市場をより競争的にしようとした。

インフレだということは、国内需要が供給能力を上回っているということである。したがってサッチャリズムでは、公務員の高賃金を見直し、強すぎる労働組合を是正して賃金を抑え、外資の参入を促すことで競争環境を整備して、生産性を高めようとしたのである。

要は構造改革(サッチャリズム)という処方箋は、インフレに対処するためにだされたものだということである。この単純至極な真理がいつまでたっても浸透しない。特に日本のメディアには理解できない。

自分は構造改革は公平な競争環境、分配の正義の観点から、景気循環とは別に不断に行われるべきだと思っている。しかし首を傾げざるを得ないのは、景気対策としての構造改革を主張する人たちが多いことである。

外資を呼び込みたいなら金融緩和でよい。日本は長い間デフレなので十分な緩和余地がある。イギリスが金融緩和できなかったのは、説明してきたようにすでにインフレだったからだ。体質や病状が違うのに、同じ処方箋を勧めるのは、単なる藪医者である。

肥満(インフレ)には構造改革(運動)を、栄養失調(デフレ)には点滴(金融緩和)を。逆の組み合わせをすれば、患者は死んでしまう。

また構造改革論者は、農業や建設業については言及するが、日本でおそらく最も保護されている業界であろう、メディア業界に対する言及がないのも不可解だ。構造改革を連呼する日本のメディア業界こそ、規制緩和・新規参入を必要としているはずなのに。

私は構造改革論「だけ」を主張する人に尋ねたい。日本と中国、どちらが経済的自由度、私的財産の保護、官僚腐敗、汚職、株式市場の透明性、法の支配、著作権保護の点で優れていますか?と。

アメリカはともかくとして、日本が中国に市場環境で劣っていると考えている人間はあまりいないだろう。最近でも領土問題が発起したからといって、当該国の企業を焼き討ちにするような国である。にもかかわらず中国は成長して、日本は低成長に甘んじている。その事実だけでも、構造改革論者のいう構造改善→成長という因果関係が、少なくとも短期的には疑わしいものだと言えるのではないか。

成長はむしろ七難を隠すものだ。中国には日本では考えられないような社会不正義が行われている。にもかかわらず、まがりなりにも国家として成立しているのは、経済が成長しているからである。日本は低成長なので、逆にちょっとした欠点が目立ってしまう。そういう状態にある。

クルーグマンがアメリカがギリシャでないと言うように、日本はイギリスでも中国でもない。というわけでエコノミストさん、いい加減もう少し勉強しようぜ。

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