ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏がアベノミクスを評価した記事が1月14日のNYTに掲載されたので翻訳して紹介しよう。原題は"Japan Steps Out"である。
動き出した日本
失業率が高止まりしているのに、世界の先進国の経済政策はまちがった原則論を信奉して何年も麻痺している状態だった。雇用を作り出そうとする試みはすべて、極端な結論を持ち出されては停止させられてきた。財政支出を増やそうとすると国債が暴落する!とか、紙幣を刷ろうとするとインフレーションが爆発する!とか、極端な悲観論者たちが騒ぎ立てる。何をしても結果などでないのだから何もするな、というわけだ。ただ今までのような厳しい耐久生活に耐えよ、というわけだ。
しかしある一つの経済大国が、つまりは他でもない日本が、この状態を打破しようと動き出したように見える。
これは我々が捜し求めていたような異端者ではない。日本の政府は何度も政権交代を繰り返したけど、何かが変わるようなことはなかったように思う。新しい首相となった安倍晋三氏、彼は一度政権を担った人物だけど、彼の復帰は何年も経済運営を間違ってきた自民党とともに、”恐竜”の復帰を予感させたんだ。その上、日本は人口と比較して巨大な政府債務を抱えているため、他の先進国と比較しても、新しい政策を試す余地がさらに限られているとみられていた。
だけど安倍首相は日本の長い不況を終わらせるという公約を掲げて、既に不況原理主義者が言う様な政策とは違った新しい政策に着々と挑んでいるように見える。そしてその最初の試みは上々のようだ。
日本の今までの背景を少し紹介すると、2008年の金融危機よりはるか前から日本は不況に苦しんできた。株価の崩落と不動産バブルの破裂を受けて日本が不況に陥った時にも、日本の政策は常に過小で、遅すぎ、そして一貫性を欠いてきた。
確かに、日本は大規模な財政支出を行ってきたんだけど、財政赤字を気にするあまり引き締めに転じて、何度も確かな回復の目を摘んできてしまった。そして90年代の終わりには既にやっかいなデフレーションが根付いてしまった。2000年に入ってから日本の中央銀行である日銀はお金を刷ることによってデフレと戦おうと努力した。だけどすぐにまた引き締めに転じて、デフレが消え去る機会を葬り去ってしまった。
とはいうものの、日本は2008年から我々が受けたような高失業率や災禍を経験することはなかったんだ。僕らが最初に提言した政策は本当にまちがってたので、日本の政策を厳しく批判してきたアメリカのエコノミストたちは、これにはFRB議長のベン・バーナンケや僕も含まれるんだけど、東京を訪れた際、天皇陛下に詫びようとさえ言ったんだ。
これは日本の経験からもう一つの教訓を教えてくれている。長く続いた不況からの脱出が難しいってのは確かなんだけど、それは主に政策遂行者に、果敢な政策を採らせることが難しいことから生じているってことなんだ。つまり問題の本質は、経済的な問題というよりも政治上・知性上の問題だということなんだ。実際のところ、積極政策のリスクは、悲観論者が君たちに信じ込ませたいリスクよりも、ずいぶんと小さいものなんだよ。
巷間言われている政府債務や赤字の問題について考えてみよう。ここアメリカでは我々はいつも財政赤字を減らさなければならない、さもないとギリシャみたいになる、と警告している。しかしギリシャ、それは通貨なき国家、はアメリカとは似ても似つかない国だよ。アメリカは日本のほうによっぽど似ている。悲観論者は破滅の兆候として、長期金利の度々の上昇を挙げながら財政破綻の可能性を論じ続けるんだけど、いつまでたってもその日は来ない。日本政府は依然として1%未満の金利で長期国債を発行することができるってのに。
そして安倍首相だ。首相はより高い物価を目指すように日銀に圧力をかけながら、それによって政府債務の一部を償却しようとして、同時に積極的な財政政策を行うことを高らかに宣言した。で、それにたいしてマーケットはどう反応したか?
答えはあらゆる反応が良好だといえるだろう。長いことマイナスであった期待インフレ率が、つまりマーケットはこのデフレが長いこと続くと予想していたんだけど、その期待インフレ率が勢いよくプラスのレベルに入ってきている。にもかかわらず政府債務の金利はまったく変化しているようには見えない。これは、まずまずのインフレが続いていけば、日本の財政事情が急速に改善していくことを予見してくれているんだ。円の為替レートも下がり続け、これは本当にいいニュースだ、輸出状況も大幅に改善していくことだろう。
要するに、安倍氏はすばらしい結果を出して原理主義者たちの鼻をあかしたんだ。
安倍首相は、外交においてそんなに”良心的”な政治家ではないよ、と僕に忠告してくれる日本の政治に幾らか詳しい人がいて、そんな人たちは、彼は利益誘導型の古いタイプの政治家に過ぎないというんだ。
だけどそれがなんだっていうんだろう。彼の意図がどこにあろうと、彼が今やっていることは原理主義を打破しているということなのだ。彼が成功した暁には、何かすばらしいことが起こったことを意味するだろう。つまりそれは世界の他の国々に対して、どうやって不況から脱出するのかを教えてくれているわけだ。






